夜中に家の勝手口の戸が激しく叩かれ、誰かがぎゃあぎゃあ叫んでいるのが聞こえた。父が戸を開けると若い男が「か、火事、火事」と泡を吹きながらすがりついてきた。

火事の話は不謹慎かと思うが、このところのニュースでつい思い出したもので。
家の裏に大きな公園がある。芝生広場とか水遊び場とか森の中に遊歩道とかあって昼間は賑わう。
周囲は金網の塀で囲まれている。開園時間は朝9時から夕方5時まで。

真冬の冷え込んだ夜中、突然、家の勝手口（台所にある出入口）の戸が激しく叩かれ、
誰かがぎゃあぎゃあ叫んでいるのが聞こえた。
家族全員飛び起きた。
父が勝手口の戸を開けると、髪も服装もぐちゃぐちゃになった若い男が
「か、火事、火事」と泡を吹きながら父にすがりついてきた。

勝手口に面して納屋があるのだが、そこの扉から煙が吹き出していた。
父が母に「119番！」と指示し、庭の水道からホースを引っ張ってきた。
その隙に、さっきの若い男は庭を突っ切って門の方へ走って行ったので
（たぶん道路に出て逃げようとしたんだろう）、兄が追いかけて捕まえた。
ふと見ると、勝手口の脇には、同じように髪も服装も乱れた若い女が腰を抜かしていた。

ほどなく消防車と警察が到着、納屋は中のものがちょっと焼けただけのボヤで済んだが
水浸しになった。（後の片づけが大変だった）
若い男女は警察にしょっ引かれていった。

後から警察が教えてくれたところでは、
そのカップルは公園に遊びに来て、閉園時間を森の中に隠れてやり過ごし、
「夜中の公園をたんけーん」みたいなことをやっていたのだが、
だんだん寒くなってきて、とりあえず寒さをしのげるところはないかと探していて
（と供述したけど、××××ができるところを探してたんだろと、警察もうちの家族も思った）
うちの納屋が目に入った。
金網を越えて、納屋に入り込み（ゴミ置き場みたいなものなので、鍵はかけてない）、
寒いのでたき火をしようと、
隅にあった古新聞の束に、持っていたライターで火をつけた。
周りに燃え移った。
バカだ。バカすぎる。
半分服を脱ぎかけていたカップルは、納屋から転げ出て、うちへ助けを求めてきた。
ボヤで済んだので笑い話になったが、一昨日みたいな風の強い日だったらと思うと、ぞっとする。